ジェイコブは自身の卒業式で、誇らしげにこれまでの高校生活を振り返り、喜びに胸をふくらませ、校長が自分の名前を呼ぶのを待っていた。そして、ついにジェイコブの番が回ってきたとき、校長はちらりとジェイコブを見やり、一瞬、間を置くと、ジェイコブを飛ばして次の人の名前を呼んだのだ。どういったわけか、ジェイコブは自身の卒業式でスルーされてしまったのだ。その理由が明らかになったとき、人々は憤慨した。
入隊するのが夢
ジェイコブ・ダルトン・スタンレーは、インディアナ州のクラウン・ポイントで生まれ、地元のクラウン・ポイント高校を卒業した。同年代の他の子たちと異なり、ジェイコブは今後の進路をハッキリと描いていた。
幼い頃から、ジェイコブは軍隊に入隊して軍曹になるのが夢だった。父親のようになりたいと考え、初めて軍隊に入りたいと口にしたのは、わずか10歳のときだった。
ブートキャンプへ
ジェイコブは自分の夢を叶えるまでの道のりが決して平坦ではないことを知っていた。そのため、来るべきものに備えておこうと、学校ではしっかり勉強に励み、ほとんどの単位を取得するとすぐに、海兵隊員になるべく申し込んだ。
その後、海兵隊員になるために必須のトレーニングであるブートキャンプを終え、卒業式に間に合うように、インディアナ州に帰ってきたのだった。
夢を追いかけて
ブートキャンプから帰ってきたジェイコブは、大変なトレーニングを無事に終えたことを誇りに思う母親と自身の彼女に迎えられた。もちろん、ジェイコブは海兵隊員の制服を身につけていたのだが、初めてその姿を目にした母親は今にも泣き崩れそうなほどだった。
ジェイコブは、周りに無理だと言われても、夢に向かって一歩確実に前進したのだ。しかも、卒業式は目前だ。
いよいよ、卒業式
誇らしげに顔を輝かせたジェイコブと母親のキャシー、ジェイコブの彼女は車に乗り込むと、卒業式へと向かった。ジェイコブにとって記念すべき日だった。人生の新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。ついに卒業証書がもらえる。心の準備はバッチリだった。
長かった高校生活でどんなに頑張ったか、自分が一番知っている。達成感もあった。さぁ、数時間後に卒業式が始まる。
友人や教師さえも感心し、尊敬した
ジェイコブは学校に到着すると、人混みの中を歩きながら、友人や教師らと言葉を交わした。中には、ジェイコブに敬礼する人もいた。卒業予定の学生たち、保護者、教師らが集まり、ワクワクさせるような高揚感が漂っていた。
ジェイコブが海兵隊員の制服を着用して卒業式に出席することは、議論の的となっていた。ジェイコブには問題を起こそうとするつもりなどまったくなかったのだが、結果的に多くの問題を引き起こすこととなる。
卒業式が始まる
クラウン・ポイント高校の校長は、チップ・ペティットという名の男性だった。その校長がステージに上がり、マイクを片手に開会のスピーチを始め、卒業式は幕を開けた。
スピーチが終わると、学生たちの名前が呼ばれる番だった。ペティット校長はアルファベット順に書かれた卒業生たちの名前を順番に読み上げ始めた。
ジェイコブ、準備はバッチリ
ペティット校長が「S」から始まる名前を読み始めると、ジェイコブは興奮を抑えるのがやっとだった。この晴れがましい場のために、ジェイコブはみんなの前で何を言おうか用意していたのだ。
さぁ、ジェイコブの番がきた!だがその時、校長は一瞬の間を置いたかと思うと、ジェイコブの名前を呼ぶことはなかったのだ。ペティット校長と目が合うと、その顔に少し意味ありげな笑みが浮かび、次の人の名前を呼んだのだった。明らかにジェイコブの順番を飛ばしたのだ。信じられない!何かの間違いに違いなかった。
卒業式のドレスコードに違反していた
ジェイコブはうつむいた。自分の名前が呼ばれなかったのは、卒業式の服装規定に従わずに海兵隊員の制服を着ていたからに違いない。だが、そうしたのは決して、校長や社会に対する反抗心などからではなかった。
単に、ブートキャンプを終えて、卒業証書を手にした後に自分が何を目標にしているかを周りに見せたかっただけだった。卒業式が始まる前に、制服を着用していたことについて校長が注意していたものの、ジェイコブは敬意をもって、この制服で出席したい旨を伝えていた。
ジェイコブの母、怒りを覚える
ジェイコブは、自身の国を守るためには命を懸ける覚悟があることを示そうとして軍服を着用して式に臨んだにもかかわらず、どうしてこんな扱いを受けなければならなかったのだろうか。ジェイコブの母親は周りを見渡すと、他にも服装規定に違反している学生がいたのに、その子たちは名前を呼ばれていたことに気づいた。
インタビューに答えて、キャシーは「他にも、ショートパンツに運動靴を履いていた子もいたし、宗教観を示すべく赤いターバンを頭に巻いた子もいました。」
ジェイコブは本気だった
卒業式に際して、ジェイコブは海兵隊のブルードレスを着用した。当時、クラウン・ポイント高校の校則には、卒業式に軍服を着ることができるか否かについて示されていなかった。
校長以外は誰も軍服が校則に反するかどうかなど、気にしていないようだったし、実際に、ジェイコブが国を守るために入隊したのにこんな扱いを受けたことを後で知った大半の人は怒っていた。
応援してくれる人々も
ジェイコブの同級生で卒業式に出席していたリアン・タスティソンは、こうした状況について、「本当にあり得ない…ジェイコブは軍隊に入って自分達のために命をかけようとしているのに。名前を呼ばれないなんて、卒業式でステージに上がれないなんて、許されることじゃないと思います。」と語っている。
タスティソンはさらに、卒業生一同「憤慨している」し、(その時に気づいていたら)ジェイコブと一緒に卒業式を退場していただろうとも話している。
非難の声、続々と届く
その後、卒業式でジェイコブに何が起こったのか、すぐに人々に知れ渡った。クリスタル・ハナンデズはこの話を聞いた後、フェイスブック上に投稿している。
「人生を通して、人とは違うことを誇りに思いなさい、個性を大切にしなさいとか大人はよく言うけれど、人生の大切な行事で学校の責任者が台無しにするような決断をしたなんて、本当に信じられない。」
大騒動へと
なんと、この話は下院教育労働委員会にまで届くこととなった。
あるユーザーはフェイスブックでこう投稿している。「今日、ペティット校長に手紙を送りました。私の友人は、クラウン・ポイント高校を財政的に支援しています。私の息子に同じようなことが起こったら、私自身が手を引いてステージに息子を上がらせたことでしょう。」騒動は大きくなっていったが、ここで重要なのは、この件についてペティット校長がどう考えているかだ。
ジェイコブは、注意を真剣に受け止めなかった
ジェイコブがクラウン・ポイント高校の卒業式のリハーサルに参加したとき、ペティット校長はジェイコブに近づき、軍服を着て卒業式に出席することはできないと伝えていたという。
ジェイコブはその注意をあまり深刻に受け止めていなかったが、校長が名前を呼ばなかったことで罰が与えられたのだと気づき、ショックを受けた。ペティット校長はジェイコブに注意していたとは言え、卒業式でジェイコブの番を飛ばすことは罰として正しかったのだろうか。本当にそこまでする必要はあったのだろうか。
ペティット校長も引き下がらない
卒業式での出来事が人々に知れ渡り、ペティット校長のもとにも続々と批判が届いていたものの、校長は一歩も引かなかった。校長は断固として、ジェイコブは校則に従うべきで、どうしても自分が海兵隊員になったことについてアピールしたいのであれば、卒業生が着用するガウンの上から兵隊が身につけるストールやひもを付ければ良かったのだと主張した。
ペティット校長は、NBCシカゴ放送のインタビューに答えて、「卒業式は、学生や保護者、さらには地域社会に敬意を払うものです。我が校の学生の誇りとなるものなのです。」とコメントしている。
火に油を注ぐ
一方、ホバート高校では、アナ・クリティコスという女子生徒が海兵隊に入隊したのだが、そのために早く卒業しなければならなかった。だが、ジェイコブと異なり、アナは他の学生らに交じって卒業式で軍服を着用することが許可されていたのだった。
アナが高校の責任者に軍服の着用について尋ねたところ、学校側は全面的にその考えを支援し、軍服を着用することを称えたということだった。
何が違ったのだろうか
アナに軍服を着ることを許可した学校責任者は称賛された。アナはこうコメントしている。「学校関係者のみんなはすごく協力的でした。高校の卒業式に海兵隊員の制服を着用してもいいと海兵隊からも許可が出ていました…(中略)教育委員会や校長先生など、関係者の方々が話し合いを行って、海兵隊の制服を着てもいいと許可を出してくれたのです。」
他の高校では軍服を着用する許可を出したばかりか、それを称賛さえしているのに、どうしてジェイコブには許可が出なかったのだろうか。
ホバート高校、全面的に支援を示す
クラウン・ポイント高校がジェイコブの件でまだ炎上している一方で、ホバート高校の責任者、ペギー・バフィントンはコメントを発表している。
「我々は、入隊した卒業生を立たせますが、観客が拍手と歓声をもってその人たちを称えることで、みんなが愛国心を認識し、一つになれるような特別な時間が持てるのです。今年は特に、学期途中で卒業したアナ・クリティコスが、卒業式に戻ってくることができて、本当に良かったです。」
海兵隊からもコメントが出された
海兵隊の報道官によると、学校の制服規定などは、海兵隊の関与するところではないという。海兵隊のクラーク・カーペンター少佐は、「海兵隊は特定の高校生に対し、卒業式に際しての服装の指定をするものではありません。(中略)その決定権限は学校責任者にあります。」とコメントしている。
このコメントにガッカリした人もいるが、大切なのは、学校責任者でさえ、軍服を(今後)どのくらい着るかについての決定権限は持たないということだ。
政治家の耳にまで届いた
ジェイコブの件はどんどん拡散され、とうとうマイク・アイルズワース下院議員の耳にも届いた。自身も退役軍人であるアイルズワースは、ジェイコブを支援するコメントを発している。「これは適切ではなかったと思います。
国のために危険な任務につく覚悟のある者に対し、卒業式で軍服を着用する選択肢を与えるべきだと思います。」当然、このコメントに数多くの人が同意している。
法案を通過させた
間もなく、州の下院議員をつとめるマイク・アイルズワースは新しい法案について、委員会の承認を得ることに成功した。この法案により、学校区はすでに入隊して兵役についている学生に対し、従来卒業式で着用される角帽とガウンではなく、軍の礼服を着用することを許可しなければならない。
法案を通過させた後、マイクは「アメリカ国内の公立高校の規則はバラバラです。なので、この点について一貫性を持たせたかったのです。」とコメントしている。アイルズワースのこの行動は人々に評価された。
ジェイコブはというと…
ジェイコブの父親であるウィーラー・スタンレーは、卒業式での件についてコメントすることを拒否しているものの、国内の制服基準を統一する法案が施行されることを支持すると述べた。
ジェイコブはこの一連の騒動についてコメントを求められると、「2017年度卒業生から注意をそらしてしまうようなソーシャルメディア上での議論を起こすことを望んでいません。(中略)これ以上コメントを出したくもありませんし、起こったことを過去のものとしたいと考えています。そして、一海兵隊員としてキャリアをスタートさせたいのです。」と答えている。